DRサイトはなぜ国内が選ばれるのか?マルチゾーン構成の考え方
更新日:2026-06-08 公開日:2026-06-08 by Bitmoss
災害対策や事業継続(BCP)の重要性が高まる中、DRサイトの配置場所や構成を見直す企業・自治体が増えています。
しかし、DRサイトを検討する際には「国内と海外のどちらに置くべきか」「マルチゾーン構成は必要か」「クラウド上でどこまで冗長化すべきか」といった判断が必要になります。
本記事では、DRサイトが国内で選ばれる理由を、可用性・レイテンシ・データ保護・ガバメント要件・マルチゾーン構成の観点から解説します。
結論:DRサイトは「国内マルチゾーン構成」が有力な選択肢になる
DRサイトは、単に遠隔地へバックアップを置けばよいものではありません。事業継続に必要な復旧時間、データ保護要件、運用体制を踏まえて設計する必要があります。
特に企業や自治体では、国内の複数拠点・複数ゾーンを活用する「国内マルチゾーン構成」が有力な選択肢になります。
低レイテンシでのデータ同期、国内法やガバナンスへの対応、障害時の運用性を考慮すると、多くの国内システムでは国内DRサイトを採用するメリットが大きいからです。
| 観点 |
国内DRサイトが選ばれる理由 |
|---|---|
| 可用性 | 国内の複数ゾーンに分散することで、障害時の業務継続性を高めやすい |
| レイテンシ | 本番環境との通信遅延を抑えやすく、同期や切り替えを設計しやすい |
| データ保護 | 重要データを国内に保管しやすく、管理方針を明確にしやすい |
| ガバメント要件 | 自治体・公共系システムでは国内運用が求められるケースがある |
| 運用性 | 障害対応、保守、切替試験を国内体制で実施しやすい |
DRサイトとは
DRサイトとは、災害や大規模障害によって本番環境が利用できなくなった場合に、システムを復旧・継続運用するための代替拠点です。
DRは「Disaster Recovery」の略で、日本語では災害復旧と訳されます。
DRサイトの役割は、単にデータを保存することではありません。サーバー、ネットワーク、ストレージ、アプリケーション、運用手順を含めて、業務を再開できる環境を用意することです。
DRサイトで検討すべき主な要素
- 本番環境からどれくらい離すか
- 国内と海外のどちらに配置するか
- 単一拠点か、複数ゾーンに分散するか
- データ同期をどの頻度で行うか
- 障害時にどの程度の時間で復旧するか
- 運用担当者が切り替え対応できる体制か
つまりDRサイトは、単なるバックアップ先ではなく、事業継続のためのインフラ設計そのものです。
DRサイトが国内で選ばれる理由
DRサイトは海外に配置することも可能ですが、多くの企業や自治体では国内拠点が選ばれています。
その理由は、国内DRサイトの方が、可用性・レイテンシ・データ保護・運用性のバランスを取りやすいためです。
理由1:レイテンシを抑えやすい
DRサイトでは、本番環境とDR環境の間でデータ同期やレプリケーションが発生します。
DRサイトを海外に置くと、通信距離が長くなるため、レイテンシが大きくなりやすくなります。レイテンシが大きいと、データ同期の遅延や切り替え時間の長期化につながる可能性があります。
一方、国内DRサイトであれば、通信遅延を抑えやすく、RPOやRTOを設計しやすくなります。
- RPO(目標復旧時点):どの時点までのデータを復旧するか
- RTO(目標復旧時間):どれくらいの時間で復旧するか
特に業務停止の影響が大きいシステムでは、国内拠点を使った低遅延なDR構成が有効です。
理由2:データ保護要件に対応しやすい
企業や自治体では、個人情報、機密情報、行政情報など、取り扱いに注意が必要なデータを保有しています。
海外リージョンや海外データセンターを利用する場合、データ所在地、準拠法、国外移転、委託先管理などを確認する必要があります。
国内DRサイトを利用すれば、重要データを国内に保管しやすく、データ管理方針を明確にしやすくなります。
そのため、データ保護やガバナンスを重視する企業では、DRサイトも国内に置く判断がされやすくなります。
理由3:ガバメント要件・自治体系システムと相性がよい
自治体や公共系システムでは、システムの安定運用に加えて、データの所在や運用体制も重要な判断材料になります。
特に行政情報や住民情報を扱うシステムでは、国内で管理できること、障害時にも国内体制で復旧対応できることが重視されます。
そのため、自治体・公共系システムでは、国内リージョンや国内データセンターを活用したDR構成が検討されやすくなります。
理由4:障害対応・保守運用がしやすい
DRサイトは構築して終わりではありません。
障害時に確実に切り替えられるよう、定期的な復旧訓練、切替試験、手順書の更新が必要です。
国内DRサイトであれば、運用担当者、ベンダー、保守事業者との連携が取りやすくなります。
また、障害発生時のコミュニケーションや作業時間帯も調整しやすいため、現実的な運用体制を作りやすい点もメリットです。
理由5:可用性と災害対策のバランスを取りやすい
DRサイトは本番環境から十分に離れている必要があります。
一方で、離しすぎるとレイテンシや運用負荷が大きくなります。
国内DRサイトでは、一定の地理的分散を確保しながら、通信遅延や運用負荷を抑えやすいという利点があります。
こうした理由から、可用性と運用性のバランスを取る設計として、国内マルチゾーン構成が有効です。
マルチゾーン構成とは
マルチゾーン構成とは、システムを複数のゾーンに分散配置し、特定の拠点や設備に障害が発生してもサービスを継続しやすくする設計です。
ゾーンとは、クラウドやデータセンターにおける独立した設備単位を指します。電源、ネットワーク、空調などが分離されている場合、1つのゾーンで障害が発生しても、別ゾーンでシステムを継続できる可能性があります。
DR設計では、単一拠点に依存しないために、複数ゾーンを活用することが重要です。
マルチゾーン構成で分散する主な要素
- Webサーバー
- アプリケーションサーバー
- データベース
- ストレージ
- ロードバランサー
- バックアップデータ
- 監視・ログ基盤
特にDR構成では、システム本体だけでなく、監視やバックアップ、切替手順まで含めて分散設計することが重要です。
DRの基本的な考え方やBCPとの関係について整理したい場合は、『BCP・DRとは?違い・必要性・クラウド対策までわかりやすく解説』も参考にしてください。
クラウド環境におけるマルチゾーン構成の具体例については、『さくらのクラウド「石狩第3ゾーン」とは?リージョン構成とメリットを解説』で詳しく解説しています。
DRサイト設計で考えるべき構成パターン
DRサイトの設計には複数のパターンがあります。自社のシステム重要度、復旧要件、コスト、運用体制に応じて選択することが重要です。
一般的には「国内マルチゾーン構成」を基本とし、必要に応じて遠隔地DRを組み合わせる形が採用されます。
単一拠点構成
単一拠点構成は、本番環境を1つの拠点やゾーンに集約する構成です。
コストを抑えやすい一方で、拠点障害が発生するとシステム停止につながるリスクがあります。
導入初期や検証用途など、シンプルさとコスト優先で選びやすい基本構成です。
国内マルチゾーン構成
国内マルチゾーン構成は、国内の複数ゾーンにシステムを分散配置する構成です。
単一ゾーン障害に備えながら、低レイテンシで運用しやすい点が特徴です。
可用性と現実的な運用負荷のバランスを取りたい場合に適した構成です。
国内遠隔地DR構成
国内遠隔地DR構成は、本番環境とは離れた国内拠点にDRサイトを用意する構成です。
広域災害への備えとして有効ですが、データ同期や切替手順の設計が重要になります。
広域災害対策を明確に求められる環境で、有力な選択肢となる構成です。
国内マルチゾーン+遠隔地DR構成
国内マルチゾーンと遠隔地DRを組み合わせる構成です。
通常時はマルチゾーンで可用性を高め、大規模障害時には遠隔地DRへ切り替える考え方です。
可用性と災害対策の両立を高い水準で求める場合に適した構成です。
構成パターン比較表
| 比較軸 | パターン1 単一拠点構成 |
パターン2 国内マルチゾーン構成 |
パターン3 国内遠隔地DR構成 |
パターン4 国内マルチゾーン+遠隔地DR構成 |
|---|---|---|---|---|
| 可用性 |
低
1拠点集中のため、障害発生時に停止しやすい構成です。
|
中
単一ゾーン障害に備えやすく、安定運用しやすい構成です。
|
中
通常時の冗長性よりも、災害時の切替確保に重きを置く構成です。
|
高
平常時の可用性と大規模障害時の継続性を両立しやすい構成です。
|
| コスト |
低
構成がシンプルで、初期費用・運用費用を抑えやすいです。
|
中
冗長化の分だけ増えますが、現実的な範囲に収めやすいです。
|
中
DRサイト確保や同期設計が必要となり、コストは上がりやすいです。
|
高
冗長化とDRを併用するため、4パターンの中では最も高コストです。
|
| 災害対策 |
低
拠点障害や広域災害への備えは限定的です。
|
中
ゾーン障害には強い一方、広域災害対策には追加設計が必要です。
|
高
離れた国内拠点への切替を前提に、広域災害へ備えやすい構成です。
|
高
平常時の冗長性に加え、広域災害時の継続性も確保しやすいです。
|
| 運用負荷 |
低
監視、障害対応、構成管理が比較的シンプルです。
|
中
冗長構成の設計・監視・切替考慮が必要になります。
|
高
同期管理、DR切替手順、訓練・運用整備の負荷が高まります。
|
高
冗長運用とDR運用を両方管理するため、最も高度な運用設計が必要です。
|
| 向いているケース | 停止影響が小さい検証環境や小規模システム | 業務停止を避けたい基幹系・業務系システム | BCP要件が厳しいシステム、自治体・公共系システム | 停止影響が大きい重要システム、自治体・金融・医療・基幹業務 |
迷った場合は「国内マルチゾーン構成」を基準に検討するのがおすすめです。
可用性・コスト・運用負荷のバランスが取りやすく、多くの企業システムで採用しやすい構成だからです。
国内DRサイトと海外DRサイトはどちらを選ぶべきか
DRサイトの配置場所を検討する際、「国内と海外のどちらが優れているのか」と考える方も多いでしょう。
しかし実際には、国内と海外のどちらが優れているかではなく、自社の要件に合った構成を選ぶことが重要です。
特に国内向けサービスや自治体・公共系システムでは、レイテンシやデータ保護、運用体制の観点から国内DRサイトが選ばれるケースが多くなっています。
一方で、グローバル展開を行う企業や広域災害対策を重視する場合は、海外リージョンを活用した構成が選択肢になることもあります。
以下の図は、国内DRサイトが選ばれる理由と、DRサイト構成を検討する際の判断ポイントをまとめたものです。
国内DRサイトが向いているケース
- 国内ユーザー向けサービスを提供している
- 低レイテンシでのデータ同期が必要
- 個人情報や機密情報を扱っている
- 自治体・公共系案件に対応している
- 国内事業者と連携した運用体制を構築したい
こうしたケースでは、国内マルチゾーン構成をベースに設計することで、可用性と運用性のバランスを取りやすくなります。
重要なのは「国内か海外か」ではなく構成全体
DRサイト設計では、配置場所だけを議論しても十分ではありません。
RTO・RPO、データ同期方式、運用体制、データ保護要件などを踏まえたうえで、どの構成が自社に適しているかを判断することが重要です。
近年は、通常障害には国内マルチゾーン構成で対応し、大規模災害には遠隔地DRで備える構成が採用されるケースも増えています。
マルチゾーン構成で確認すべき設計ポイント
マルチゾーン構成を採用する際は、単に複数ゾーンにサーバーを置くだけでは不十分です。
障害時に業務を継続できるよう、以下の観点で設計する必要があります。
1. RTOとRPOを明確にする
DR設計では、まずRTOとRPOを決める必要があります。
- RTO:障害発生から何時間以内に復旧するか
- RPO:どの時点までのデータを復旧対象とするか
RTOとRPOが曖昧なままでは、必要以上に高コストな構成になったり、逆に復旧要件を満たせない構成になったりします。
2. データ同期方式を決める
マルチゾーン構成では、データをどのように同期するかが重要です。
主な方式には、同期レプリケーション、非同期レプリケーション、定期バックアップがあります。
| 観点 |
特徴 | 国内DRサイトが選ばれる理由 |
|---|---|---|
| 同期レプリケーション | データ差分を小さくしやすい | 重要度が高く、停止影響が大きいシステム |
| 非同期レプリケーション | 性能とコストのバランスを取りやすい | 多くの業務システム |
| 定期バックアップ |
構成が比較的シンプル | 復旧まで一定時間を許容できるシステム |
3. 切替手順を設計する
DRサイトは、障害時に切り替えられなければ意味がありません。
以下のような項目を事前に決めておく必要があります。
- 誰が切替判断をするか
- どの条件でDRサイトへ切り替えるか
- DNSやロードバランサーをどう切り替えるか
- 切替後のデータ整合性をどう確認するか
- 本番環境復旧後にどう戻すか
特にDNS、ネットワーク、認証基盤、監視システムは、切替時のボトルネックになりやすい領域です。
4. 監視とログも分散する
本番環境をマルチゾーン化しても、監視やログ基盤が単一拠点に依存していると、障害時に状況を把握できなくなる可能性があります。
DR設計では、以下も含めて冗長化を検討する必要があります。
- 監視システム
- ログ保管先
- 通知先
- 運用アカウント
- 復旧手順書
障害時に「何が起きているか分からない」状態を避けるためにも、監視・ログ設計は重要です。
5. 定期的に復旧訓練を行う
DRサイトは構築後の運用や訓練も重要です。定期的に復旧訓練を行い、実際に切り替えられるかを確認する必要があります。
- 切替手順が最新か
- 担当者が手順を理解しているか
- 想定時間内に復旧できるか
- データ整合性に問題がないか
- 関係者への連絡体制が機能するか
訓練結果をもとに手順を改善することで、実効性のあるDR体制を維持できます。
DRサイトを国内に置くべきケース
すべてのシステムで国内DRサイトが最適とは限りません。ただし、以下に該当する場合は国内DRサイトを優先的に検討する価値があります。
- 国内ユーザー向けのサービスを提供している
- 個人情報や機密情報を扱っている
- 自治体・公共系システムに関係している
- 低レイテンシでのデータ同期が必要
- 障害時も国内の運用体制で対応したい
- ガバナンス上、データの国内保管が望ましい
- 業務停止による影響が大きい
これらに該当する場合は、国内マルチゾーン構成や国内遠隔地DR構成を検討するとよいでしょう。
DRサイト設計でよくある失敗
DRサイト設計では、以下のような失敗が起こりがちです。
失敗1:バックアップだけで十分だと考える
バックアップは重要ですが、バックアップだけでは業務継続は実現できません。
復旧先の環境、ネットワーク、認証、アプリケーション、運用手順まで含めて設計する必要があります。
失敗2:DRサイトを作ったが切替試験をしていない
DRサイトは、障害時に切り替えられて初めて意味があります。
切替試験をしていない場合、実際の障害時に手順不備や権限不足、データ不整合が発覚する可能性があります。
失敗3:ネットワークとDNSの設計が不十分
DR切替では、サーバーだけでなくネットワークやDNSの切替も必要です。
この設計が不十分だと、DRサイト側のシステムが起動していても、利用者がアクセスできない状態になります。
失敗4:監視・ログが単一拠点に依存している
障害時に監視基盤まで停止すると、原因調査や復旧判断が難しくなります。
監視やログもDR設計の対象として考えることが重要です。
DRサイト設計は「国内か海外か」ではなく「要件に合うか」で判断する
DRサイトの配置は、国内か海外かだけで決めるべきではありません。
重要なのは、自社の業務要件、復旧要件、データ保護要件、運用体制に合っているかです。
国内DRサイトは、レイテンシ、データ保護、ガバメント要件、運用性の面で優れています。一方で、広域災害への備えとしては、国内の中でも十分な地理的分散を取る必要があります。
そのため、DRサイト設計では以下のような考え方が重要です。
- 通常障害にはマルチゾーン構成で備える
- 大規模災害には遠隔地DRで備える
- 重要データは国内保管を基本にする
- 切替手順と復旧訓練まで含めて設計する
- コストと可用性のバランスを取る
まとめ
DRサイトは、災害や大規模障害に備えて業務を継続するための重要なインフラです。
国内DRサイトが選ばれる理由は、可用性、レイテンシ、データ保護、ガバメント要件、運用性のバランスを取りやすいためです。
特に企業や自治体では、国内マルチゾーン構成を活用することで、低レイテンシと高可用性を両立しやすくなります。
ただし、DRサイトは作るだけでは十分ではありません。RTO・RPO、データ同期方式、ネットワーク切替、監視・ログ、復旧訓練まで含めて設計することが重要です。
自社に適したDR構成を検討する際は、国内・海外という配置場所だけでなく、事業継続に必要な要件から逆算して設計しましょう。
